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ずっと読もうと思っていて読めずにいる本の話

第2回 2011.12 苦い思い出『音楽』三島由紀夫 本谷有希子(劇作家)

プレゼントをめぐる葛藤

最近、人からプレゼントをもらった。

この夏、三ヶ月間ものあいだ一緒に舞台を作った役者からだったのだが、演出家に「ありがとう」という意味で贈るにしては、高級な品物だった。はっきり言って、私は今まで役者からそんな高価なプレゼントなどもらったことがない。受け取っていいのだろうかと一瞬迷ったけど、私を喜ばせようと彼女がそのプレゼントを選んでくれたことは間違いなかった。それは私が前から欲しいと思っていたものだった。いつかどこかで「欲しいな」と漏らしていたのを聞いて覚えてくれていたんだろう。

素直にプレゼントを受け取ってから、「もらった以上、私からも何かお返しをしたい」とすぐに思った。これだけ一緒にいたのに舞台が終わってしまえば、役者と会う機会は激減してしまうのだ。さらに自分の場合、プレゼントをあげるという行為はタイミングを逃すと、当初の「ありがとう。私からも……」という純粋な気持ちがいつのまにか「早くしなきゃ。早く何かを選ばなきゃ。心ない人間だと思われる」という焦りに変わっていく。こんなふうに選ばれても相手は嬉しくない、というのは分かっている。何をあげようか相手のことを一生懸命あれこれ考えている時間こそがプレゼントなのに。私のようにプレッシャーと闘いながら選ぶなんて問題外だろう。雑念を振り払いながら、私はいろんな店を見てまわった。でも彼女にぴったりだと思うものを見つけてあげることはできなかった。高価なものをもらったのだから高価なものをあげたい、と考えていた。でももしそれで全然趣味にあわないものだったらどうしよう、と想像すると躊躇(ためら)ってしまう。その繰り返しになる。

私は取ってはいけない手段を取ることにした。

「今、何が欲しい?」

そう本人に直接メールで尋ねることにしたのだ。どういう印象を持たれるかは分からなかった。もしかしたら自分で考えて下さいと怒られてしまうかも。でも数分後、返ってきたメールには意外な要望が書かれていた。

「本谷さんの、おススメの小説をプレゼントして下さい」

なるほど、と思った。結局はそういうものが一番嬉しいのかもしれない。私だって「本谷さんがきっと好きだから」とこれまでに人から本をプレゼントされた経験が何度かある。そうしておもしろいことに、それらは様々なジャンルにもかかわらず、大抵、救いのない話なのだ。人間の心の闇について描かれたものもやけに多くて、「私はどんな人間だと思われているんだろう」と、その集まった本たちを見て不思議になる。並べてみていると、こういう本をあげたい人、という私の輪郭がなんとなく浮かび上がってくる。近々もらった本は、いい意味で人間のくだらなさについて触れたものも多い。どれも確かに私らしいと言えば私らしいな、と思えてくるのだが、そんな中、他の何にも似ていない一冊の本がある。三島由紀夫の『音楽』だ。

Photo by Aya Shirai