voices

ずっと読もうと思っていて読めずにいる本の話

第7回 2012.06 意外と知らないファーブルのこと 『完訳 ファーブル昆虫記』J-H.ファーブル 泉 麻人(コラムニスト)

夏の匂いがすると昆虫を探しに行きたくなる

切手、地図、バス、天気予報……、子供の頃から愛好している趣味がいくつかあるけれど、昆虫というのもその一つ。とくに、これを書いている5月の初夏めいた頃になると、「野に出て網を振るいたい!」という衝動に駆られる。また、大きな書店の<生物>のコーナーへ行って、昆虫テーマの本を探すのもこの季節が多い。

わが仕事場の書棚にも、昆虫本が集まった一画がある。奥本大三郎や池田清彦のエッセー、定番の北杜夫「どくとるマンボウ昆虫記」、マンボウ先生ほどポピュラーではないが、小山内龍の「昆虫放談」も子供向けエッセーの名作だ。昭和初めの東京郊外の自然描写が面白おかしく綴られていて、何度読み返しても愉快な気分になる。

大人になってから古書で買いもとめたものもいくつかあるが、講談社の学習大図鑑シリーズの「昆虫の図鑑」は、子供の頃から愛読している一冊。かなりボロボロになったこの図鑑、奥付を見ると<昭和37年11月20日 第8刷>とあるから、幼稚園の年長組の時期だろう。捕まえたチョウやトンボの名を調べようと、愛用した最初の図鑑と思われる。めくってみると、思い出深いページがいくつか現れる。

たとえば、「月見草の花が咲く夕暮れ時の畑の上空を舞うスズメガの群れ」「牧場の馬の首もとにとまったサシバエ」「ブユに刺されて悲しそうな顔の子供」……と、好みの昆虫よりも薄気味の悪いカットの印象が強く残っているあたりが面白い。昔の画家が描いた、昭和前期調の画風もいま見ると味わいがある。

Photo by Aya Shirai