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ずっと読もうと思っていて読めずにいる本の話

第9回 2012.08 未読本をめぐる連想ゲーム 『Actress in the House』ジョゼフ・マッケルロイ 黒原敏行(翻訳家)

平手打ち、に惹かれて

ずっと読もうと思っていて読めずにいる本はもちろんたくさんある。買ったはいいが読めていない積読本も、文字どおり山と積んである。

そのなかに外国語(おもに英語、フランス語が少し)の本がけっこう多いのは、翻訳業者の特色といっていいのだろう。だが、要するに横文字の本をたくさん買ってもろくに読めずにいますと告白しているわけで、どうもお恥ずかしいかぎりだ。

ジョゼフ・マッケルロイの『Actress in the House』(未訳。題の直訳は『劇場の女優』)という小説は、2003年に刊行されたとき、某ネット書店で即座に買った。そのときどきの仕事と直接関係のない原書はペーパーバックになってから買うのが普通だが(最近は電子書籍が出ていればそれで読むが)、これは刊行直後にハードカバーを買ったのだった。

なぜ衝動買いしてしまったかというと、ジャケットが真っ黒な地に暗黒犯罪小説風のイラストという魅力的なものだったからということもある。いわゆる「ジャケ買い」というやつだ。だが、それより何より、内容の紹介文にぐっと惹きつけられたのだ。おおむね次のような紹介文だった。

 

《小さな劇場の舞台のうえで、若い女優が共演の男に頬を思いきり打たれてよろめいた。上演中の芝居とはどう考えても関係がない、まったく唐突な平手打ちだ。暗い客席の、前から八列目で観劇していた中年男デイリーは、はっとした瞬間、助けを求めるような目をした女優と視線が合ってしまう。

女優とはそれまで一度も会ったことがない。だが、この夜の劇場での椿事をきっかけに、デイリーの意志に反して、彼女の人生が人生に入りこんでくる。一九九〇年代半ばのニューヨークで、ふたりの現在と過去のさまざまな糸がからみあい、運命が織りあげられていく……》

 

小説の冒頭を読んでみると、いきなりその平手打ちシーンから始まっている。まさに「つかみは充分」というやつだ。

Photo by Aya Shirai