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インタビュー 柚木麻子さん

その1 「外国の少女小説に夢中」

――幼い頃から本は好きでしたか。

柚木:すごく好きでした。まず絵本から読み始めたわけですけれど、ベーメルマンスの「マドレーヌ」シリーズがすごく好きでした。最近になって出たものは色調がまた違うんですけれど、最初の頃の暗いトーンがすごく好きで。マドレーヌって寄宿舎でシスターに育てられている女の子なんですが、そこが可愛いなって思っていて。実はそれがのちに大学の卒論にもかかわってくるし、『終点のあの子』に出てくる朱里に大きく影響しています。ほかにはとにかくリンドグレーンが好きでした。そのおかげで『ミレニアム』も楽しめました。『ミレニアム』には『名探偵カッレくん』が出てきたりと、”リンドグレーンあるある”が楽しめるんですよね。登場人物の一人、リスベットは『長くつ下のピッピ』がモデルだと言われていたけれど、私は『おもしろ荘の子どもたち』のリサベットじゃないかと思っていて。この本はマディケンとリサベットという小さな姉妹が春夏秋冬を過ごしていくだけの話なんですけれど、スウェーデンの四季の描写が楽しそうなんです。リンドグレーンは『長くつ下のピッピ』などのほうが有名ですが、私はこれが好き。映画にもなりましたが今は児童ポルノ扱いになるかも。女の子たちが裸になって行水していたりしているだけで別に嫌らしくないんですけれど。スウェーデンって子供に大らかというか、のびのびさせているんですよね。カッレくんだって夜になってもまだ明るいせいか子供だけで外を出歩いているし。

――それらを読んだのがいくつくらいの頃ですか。

柚木:小学校低学年の頃ですね。あとはベバリイ・クリアリーを読みました。『ゆかいなヘンリーくん』のシリーズを書いている人ですが、私は「ラモーナ」シリーズがとにかく好きで。アメリカ版『ちいさいモモちゃん』シリーズみたいなんですよ。特別いい子なわけではない、多感な小学校低学年の女の子がゆっくり大人になっていくんです。お父さんがリストラされて、お母さんが働きにいくようになると家にいないから寂しいと思うような、大人の事情を考えない子供の目の高さで書かれてある。お姉ちゃんに比べて自分はおっちょこちょいだという感覚もあって…『ちびまるこちゃん』みたいなところもありますね。そんな女の子が少しずつ、ミリ単位で成長していくんですが、すごいなと思ったのが、学校で靴をなくしたか取られたかした時にボール紙をホチキスでくっつけて自分で靴を作ったこと。普段はラモーナをうとんじていた先生も「あなたは立派ね」みたいなことを言う。あのカタルシス! 本を読んでカタルシスを得た最初の体験でした。他には家族でハンバーガーを食べにいったりとアメリカの家族の様子が分かるところも楽しかったですね。

――外国の本が多かったのですか。

柚木:外国の本が好きでした。女の子たちがみんなが通る『赤毛のアン』、『秘密の花園』、『若草物語』、『小公女セーラ』などを読みました。全部好きなんですが、特に『赤毛のアン』が好きで。映画化作品も好き。好きすぎるあまりカナダに行けないんです。イメージが壊れると嫌なので。『赤毛のアン』より好きなものはないです。でもシリーズを通して好きなわけじゃなくて、『赤毛のアン』だけなんですよね。最後に「最近あまりしゃべらないね」と言われて「おしゃべりは心の中でしたほうが宝物になるじゃない」みたいなことを言ったところで私の中で終わりました。シリーズは長いのに、短い輝きでした。アンは人に迷惑をかけるくらいおしゃべりしたり、鏡の中の自分に名前をつけたりするところが魅力だったのに、『アンの青春』ではアンがリア充になってしまう。それ以降はアン以外の人に感情移入をしながら読みました。可愛いアンを手放してしまって孤独になってしまったマリラとか。そういえば、神エピソードがあるんです。アンが結婚して寂しく思っているマリラのところにダイアナが来てお菓子を作って「私が近所に住んでいるのだし、これからは私を娘と思って」って言う。ダイアナったらなんていい奴なんだろうって思いました。私、アンが結婚することになるギルバートは嫌いなんです。一度もいいと思ったことがない。ただのリア充だと思う。

――リア充に対する敵意が…。

柚木:リア充が嫌いだからといって、うちにこもる子が好きなわけではないんです。アンのように空想癖もあって、行動力もある子が好きなんです。アンを引き取ったマシューも大好きです。リンド夫人という人をアンが怒らせてしまった時、マシューが「さっぱりするために、とりあえず謝っておきなさい。まるくおさめろ」っていうんですよ。画期的ですよね。アンもせっかく謝るなら面白く謝ろうと思って、むせび泣いたりするんです。そうしたらリンド夫人はそれに胸を打たれて一件落着したっていう、いいエピソード。リア充嫌いといっても、アンのように痛い子が痛い子なりに世の中に順応していくところは好き。ラモーナも痛い子だけれど、1歩踏み出していきますし。そこから、パフスリーブを着ているような女の子が出てきて生活描写にキュンキュンくるような本でないと読めない時期がきます。その頃に寄宿舎ものにハマりました。

――どのような本ですか。

柚木:『おちゃめなふたご』、『おてんばエリザベス』、『すてきなケティ』、『はりきりダレル』…。どれも全寮制の女子高の寄宿舎を舞台にしたドタバタで、プロットもよく似たものが多いんです。ちやほやされて育った自信満々な女の子が両親に「君はもうちょっと人と接することを学んだほうがいい」といわれて寄宿舎に放り込まれるという展開。いちばん有名なのは『おちゃめなふたご』だと思います。可愛くて頭がよくてラクロスもうまいスーパーツインズが出てくるんです。彼女たちがクレア学院に放り込まれてぶんぶくれ。で、お決まりのパターンなんですが、最初はわざと寄宿舎から追い出されようとして悪い子のふりをする。でもだんだんまわりの女の子たちと仲良くなって、寄宿舎を出る機会もあるんですけれど結局残ることを選ぶ。”寄宿舎ものあるある”としては真夜中のパーティを計画するというのがありますね。誰かが先生に告げ口をして、それをどう乗り切るか、っていう。そこから卒業にたどりつくまでは、だんだんヒロインたちは退いてまわりのキャラが目立ってくる。『おちゃめなふたご』はネットのウィキペディアを見たら登場人物一覧があって、フランス語の先生の「嘆きのマドモアゼル」に至るまで細かく載っていて、感激して涙がでそうでした。そうした寄宿舎ものの延長で、のちに氷室冴子さんの『クララ白書』が愛読書となりました。日本で全寮制のプレッピーな世界をやるためにどうしたかというと、札幌のカトリックの学校を舞台にしたんですね。これは今映画化しても本当に可愛い映画になると思います。最近のアイドルのPVを見ていると、このクオリティでもって『クララ白書』の映画をやればいいのにって思います。

――それが小学校高学年の頃の読書ですか。

柚木:ですが、6年生になった時にそれまでの読書の傾向をひっくり返して、赤川次郎をずっと読む時期がきます。きっかけは分からないんですが、『三毛猫ホームズ』のシリーズから何から、ひたすら次郎を読んでいました。でも、高学年の頃に読んだ本でいちばん影響を受けたのはジュディ=ブルームです。アメリカのヤングアダルト小説の師匠みたいな人です。小学校高学年の女の子を描かせたら右に出る者はいないっていう。私も作風に影響を受けました。2冊挙げるとするなら『カレンの日記』と『いじめっ子』。小学生のうちにこの2冊を読むとプロットにびっくりします。『カレンの日記』は日記形式なんですけれど、両親の仲が悪くて、子供たちはなんとか引き留めようとするんだけれど結局離婚が決まるんです。それを受け入れるまでの物語なんですが、驚くほど子供向けの小説ではやってはいけないことをやっている。両親の不仲も、浮気などが原因ではなくて本当に相性が悪いんですね。食事の席でも親がそろっているだけで食べ物がまずく感じられる。子供が親の不仲から受けるストレスをものすごくちゃんと書いているんです。離婚が決まってからは友達に「かわいそう」と言われて、これまで仲良くしていた子たちが急にガキっぽく見えるようになる。それで今まで接点がなかったタイプの、両親が離婚しているインテリな女の子と仲良しになるんです。その子がカレンに子供はこう考えればいい、と手ほどきするシーンが素晴らしい。髪をシャンプーしてくれるんです。人にシャンプーされるとこんなに気持ちいいってことを教えてくれながら、親の離婚は私もショックだったけれど、それで自分も大人になれるよ、と言う。ミラクルは起こらず、苦い現実も受け入れようというスタンスですよね。『いじめっこ』は『終点のあの子』の「フォーゲットミー、ノットブルー」の原型にもなっているんですが、今読んでもびっくりします。クラスでいじめが起きるんですが、ヒロインのジルは大人っぽくて、いじめる側に属してはいるんだけれど、うざいなと思って見ているような子。家に帰れば普通にいい子なんです。それがひょんなことからたった一日にしていじめのターゲットになるんです。ここからが面白いんですが、それまでいじめられていた子が助けてくれそうな気がするじゃないですか。でも、その子はいじめっ子側につくんです。しかも自分が今までいじめられていたから、嫌がらせも超えげつない。ジルはそれまで、いじめられている子もバカだな、何かされても流せばいいのに、と思っていたんですが、いくらこっちが大人のスタンスで流したところで彼女たちはやめてくれないということを知る。容赦ないんです。結局ジルは一匹狼みたいな女の子の助けをかりて元に戻り、いじめ側についていたいじめられっ子はまたいじめられっ子に戻る。悪化しているだけで誰も反省していない。ただジルは冷めた目で、クラスの階級について非常にくだらないものだという諦念を持つというハードボイルドなラストです。最初に読んだ時、とにかくいじめられっ子がいじめ側につくというところが新鮮でした。善人が出てこない。そうしたビターな味を学びました。

――柚木さんはどんな女の子だったんでしょう。

柚木:『窓際のトットちゃん』を読んだ時、私みたいって思いました。私もチンドン屋さんを追いかけていくようなところがありました。本を読むこともすごく好きでしたが、「あのねあのねあのね」ってずっと母親に話しかけていたりして。うるさかったんでしょうね。だから本を読ませていると静かになるということで、本を与えられていたんだと思います。母親が美大の出身だったせいか、きれいな絵本がたくさん家にありました。でもそれで、字が少ない本に飽きてしまって文字の多い本を読むようになったのかも。

柚木麻子さん

柚木麻子 (ゆずき・あさこ)

1981年、東京生まれ。立教大学文学部フランス文学科卒。2008年、女子校での苛めを描いた「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞。受賞作を含む連作集『終点のあの子』(2010年/文藝春秋)での繊細な心理描写が絶賛された。二作目『あまからカルテット(2011年10月/文藝春秋)が好評発売中。