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インタビュー 恒川光太郎さん

その1 「SFやファンタジーが好きだった」

――恒川さんは現在沖縄にお住まいですが、出身は東京なのですか。例えば「風の古道」では東京の小金井あたりが出てきますが…。

恒川:東京の武蔵野市の出身です。自然が好きなのに、あまりまわりに緑がない環境でした。学研の『科学』と『学習』を読んでいたらクヌギの木に蜜を塗って夜明けにいくとカブトムシが獲れると書いてあってので、武蔵野市中を探して塗ったんです。でも何も獲れませんでした。祖父母も東京だったので、夏休みに田舎に帰るという経験もなくて。同級生が夏休みに田舎でカブトムシが獲り放題だったという話を聞いて羨ましく思っていました。

――本はどんなものが好きでしたか。

恒川:小さい頃は佐藤さとるのファンタジー童話集を読んでいました。コロボックルのシリーズも大好きで、絶対にこういう小さな人が自分のまわりにもいるだろうと思っていました。あと記憶にあるのは、小学校の図書室に江戸川乱歩の『黄金仮面』などのシリーズがあったこと。明智探偵と小林少年が活躍するシリーズです。それも読んではいたんですけれど、それよりも夢中になったのが岩崎書店の子供向けのSFシリーズ。ハインラインの『宇宙怪獣ラモックス』やウェルズの『タイムマシン』などを児童向けにしてあるシリーズです。これにすごくハマりました。「未来少年コナン」のような話も読みました(※アレグザンダー・ケイの『残された人びと』)。主人公がコナンで、ヒロインがラナというんですよ。のちにアニメの「未来少年コナン」を見た時に、あれ、これってあの話の日本版? って思いました。ほかにも『ドラえもん』を見ていると昔のSFで読んだのと同じようなものが出てきたりして「これ知ってる!」って共感していました。レイ・ブラッドベリをはじめて読んだのも小学生の頃です。他のSF作家を読んだ時期は小学生の頃から大学生の頃に集中しているのに、ブラッドベリは好きでどの時期もまんべんなく読んでいます。短編集ばかりなのでコレというタイトルが出てこないんですが。「夜市」を書いた時は「何かが道をやってくる」のイメージがあったかもしれません。

――カブトムシを獲りにいっていたような少年ですが、わりとインドアでもあったのでしょうか。

恒川:自然は好きだったのですが、球技は苦手でした。身体が小さかったのでケンカも弱かったし。小学校の頃はすごく本が好きでしたね。でも中学生になると、うまく中学生向けの本に入ることができなくて。昔読んでいたものの延長にあるもので面白いものはないかなと探したんですが、見つからなかったんです。その頃にはバイオレンス小説みたいなものがどこの本屋にも並んでいて、その周辺のものを読んでいました。西村寿行とか、夢枕獏とか。高千穂遙のようなライトノベル系のアクションものも読みました。あとは筒井康隆。『わが良き狼(ウルフ)』を最初に読んで、そこから筒井康隆さんの本を見つけると読んでいました。

――恒川さんというと、怪談や民話などもお好きだったのではないかと想像してしまうのですが。

恒川:最初は小説ではなくて、水木しげるさんの漫画だったと思います。自分の中に植え込まれていると思います。小学生の頃に『ゲゲゲの鬼太郎』の漫画を読みました。

――漫画は好きでしたか。

恒川:『少年ジャンプ』を読んでいましたね。『ドラゴンボール』や『北斗の拳』とかが連載されていた頃です。バスケ部だったんですけれど、そこでみんなで回し読みをしていました。

――あれっ、球技は苦手だというお話では。

恒川:体は小さかったのですが、ジャンプ力が異常にあったんです。でもやはり球技は得意ではなかったので、部活で主にやっていたことはレギュラーを応援することでした。

――文章を書くことは好きでしたか。

恒川:小学校低学年の頃には文章を書いたりしていました。その頃は想像でお話を考えるのが好きだったんですけれど、それ以降は一人で単にぼーっとしている感じでした。漫画みたいな絵はよく描いていましたよ。『聖闘士星矢』の鎧が格好いいなと思って、自分の鎧を想像してノートに描いていました。今、もしも誰かにそのノートを見られたら恥ずかしくて死ぬ…(笑)。

――将来なりたいものなどはあったのでしょうか。

恒川:小6の頃はインディ・ジョーンズになりたくて、将来の夢は「考古学者」と書いていました。本当に考古学に興味があったというよりも、エジプトとかで走り回って冒険している人に憧れただけでした。

――そういえば、カブトムシを獲りたかったというお話がありましたが、昆虫などは好きだったのでしょうか。

恒川:好きでしたね。今でも沖縄でセミの羽が透明だったりすると、ああ、東京とは違うなあ、図鑑で見ただけだったセミがいるな、と思います。東京はアブラゼミばかりで、ミンミンゼミがいないので。生き物は好きでしたね。買ってもらったイモリやカメを大事にしていました。でもある天気のいい日に、イモリを日光浴させてあげようと思って庭の石の上においたら、ちょっと目を離しているすきにいなくなってしまったんです。まわりに川もないし、喉が渇いて生きていけないんじゃないか…とイモリの苦しみを想像して、うえーんと一日中泣いていました。

――それは可哀そうに…。生き物が好きだったということは、生物図鑑などもよく見ていたのでしょうか。

恒川:昆虫図鑑が好きでよく見ていましたね。絵本や小説以外では、UFOの本や、世界の七不思議の本が好きでした。ナスカの地上絵は宇宙人の着陸上だといった話を読んで「すごい」と思っていました。

――ノストラダムスの予言が流行っていた世代ですよね。1999年に世界が滅びるという。

恒川:大人になるにつれて予言の矛盾なんかも分かって信じなくなりましたが、子供の時は人類は僕たちの世代で終わるんだ、って思っていました。

恒川光太郎さん

恒川光太郎 (つねかわ・こうたろう)

1973年東京都生まれ。2005年、「夜市」で第12回日本ホラー小説大賞を受賞。書き下ろしの「風の古道」を併録したデビュー作『夜市』が直木賞の候補になる。続く『雷の季節の終わりに』が山本周五郎賞候補に、3作目『秋の牢獄』は吉川英治文学新人賞候補、4作目『草祭』が再び山本周五郎賞候補になる。