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インタビュー 須賀しのぶさん

その1 「小学生で『三国志』に目覚める」

――最初に本を読んだ記憶というと、いつくらいになりますか。

須賀:幼稚園くらいから普通に絵本は読んでいたんですが、今でも読み返すのは安房直子さんの『ハンカチの上の花畑』ですね。結構シビアな話です。酒屋の女将さんのおばあさんが不思議な壺を持っているんですが、ハンカチを広げて壺をおくと、小人が出てきて花を育てて、それを収穫してお酒を造る。そのお酒がとても美味しくて、飲むとみんな嫌なことを忘れてハッピーになるんです。おばあさんが人のいい郵便屋さんにその壺を譲るんですが、他人に知られてはいけない&お酒を使って金儲けをしてはいけないなどの決まりがあって、郵便屋さんはお酒を飲んでハッピーになってお嫁さんももらうんですが、その奥さんが何かのきっかけで人にお酒をあげて、お礼に高価なものをもらってしまうんですね。そこからだんだん身を崩していく話で…。子供心に人間の善意って簡単に崩れていくものなんだなと思いました。最終的には小人の世界にいって、はっと気づくと目の前でおばあさんがハンカチを広げているところで……そのエンディングが心に残っていて、何度も読み返しています。

――勧善懲悪といった分かりやすい話ではないんですね。

須賀:そういうものには興味がなかったですね。小学校低学年の頃に夢中になったのは吉本直志郎先生の『青葉学園物語』シリーズと『とびだせバカラッチ隊』シリーズ。「青葉学園」は原爆孤児たちを集めた施設の話ですが、著者ご本人も原爆孤児だったんですよね。悲惨な話になりそうなのに、悲惨じゃない。バカをやってばかりで面白おかしくて、時々すごくゾッとするエピソードもあるけれどすぐギャグに戻る。ワクワクさせているのに世界の底を見せているような感じがすごく面白かった。「バカラッチ隊」のほうがもっと田舎暮らしの明るい話でした。

――やんちゃな話、冒険のある話が好きだったんでしょうか。

須賀:そうですね。そのまま高学年になると『三国志』にハマりましたから。いとこの家に吉川英治さんの『三国志』があって、ちょっと読んだら感じは多いし字は小さいしで「えっ」と思ったけれど、これがめちゃくちゃ面白くてあっという間に読んでしまいました。そこから柴田錬三郎や陳舜臣の『三国志』にいって、当然のように『水滸伝』にもいきました。小学校後半はひたすらその流れで、中国が舞台の冒険譚を読みました。父が好きだったので朽木寒三の『馬賊戦記』とか。小日向白朗という、日本人で馬賊になった人がいて、その人の話です。壇一雄の『夕日と拳銃』のモデルとなった伊達順之助も、馬賊になった日本人ですね。たぶん父世代ぐらいの男性は、あのへん夢中になった人は多いのではないでしょうか。

――このたび完結する須賀さんの『芙蓉千里』は大陸が舞台で馬賊も出てきますが、それを書く土台が、もう少女時代に出来ていたんですねえ。それにしても『三国志』のような大長編を何バージョンも、小学生で読むなんて。

須賀:字を読み始めたのがすごくはやくて、絵本からすぐに字だけの本に移ったようです。絵よりも字だけのほうがいろいろ自分で想像できて楽しかったんだと思います。本の虫というほどでもなく外でもよく遊んでいましたが、本を読みだすと何を言われても全然反応しなかったらしくて。ご飯も食べないで読んでいたみたいです。

――文字の本以外で夢中になったものはあったのでしょうか。漫画などは。

須賀:漫画もいとこの家で見つけたものを読んでいて、小学校低学年でまず『エリア88』にハマったんです。新谷かおるさんって絵が華やかなので、少女漫画っぽいと思って読みだしたらとんでもなくて、傭兵の戦記ものでした。でもそれがすごく面白くて。登場人物の一人、ミッキーが私の初恋の相手でした。戦記ものが好きになったのは父の影響もあると思います。父は西部劇や戦争映画が好きで、いろいろと見せてくれたのですが、初めて映画館につれていってくれたのが『戦国自衛隊』なのはどうかと思います(笑)。しばらくトラウマになりました。あっ、普通の少女漫画も読んでいましたよ。『りぼん』っ娘だったんです。当時人気があった、とにかくラブがすべて!という感じの作品よりは、スポーツものとか、ある程度恋愛とは距離があるような感じの作品が好きでした。とくに好きだったのは、『プラスティックドール』や『なみだの陸上部』、『過激なレディ』の高橋由佳利さんです。ラブ主体ではないものです。そういうものが好きで、これは『芙蓉千里』に直結しているんですけれど、大和和紀さんの『はいからさんが通る』やさいとうちほさんの『円舞曲は白いドレスで』といった大河少女漫画が大好きでした。それはずっと繰り返し読んでいます。あと基本中の基本で忘れていけないのは池田理代子さんの『ベルサイユのばら』。『オルフェウスの窓』も合わせてあげておきたいですね。小説でもそういうものが好きだったので、途中で気づいたのは私は小説ではなくて歴史が好きなんじゃないかということ。

――小説は『三国志』や『水滸伝』以降、何を読んだのですか。

須賀:なぜかロシア文学にいきまいた。家にロシア文学全集があって子供向けだと思って読んでいたんですけれど、今考えてみたら『罪と罰』はともかく『カラマーゾフの兄弟』に子供向けのものがあったとは思えないので、たぶん一般向けの全集だったんだと思います。たしかに小学生で『カラマーゾフの兄弟』を読んでもよく分からなかったけれど、『罪と罰』は読めたし、『戦争と平和』の大河感はものすごく好きでした。ロシア貴族が没落していく話なんですよね。一族が滅びていく話に惹かれます。最後はみんな死なないと駄目なんです。生き残っている人がいると「あれ、なんか納得いかない」って思っていました(笑)。

――どれも大長編ばかりですが、読むのははやかったんですか。

須賀:長編が好きだったし、読むのもはやかったと思います。ただ、こうした大河小説はだいたい男性が主人公なのが物足りなかった。女性主人公は『アンナ・カレーニナ』ぐらいでしたか。女性も魅力的な人は出てくるけれど脇役なので、もっと女の人がハチャメチャにやる話はないのかなと思っていて、それで大河少女漫画が好きになったというのはあると思います。でも少女漫画だけでも解消できなくてモニョモニョしている頃に出会ったのが氷室冴子さんでした。友達に貸してもらったんですが、最初は漫画っぽい表紙で挿絵も入っているので「子供が読むものじゃん」って思ったんです、自分が子供なのに(笑)。まだ小6だったんですけれど、私はロシア文学も読んでいるし……という気持ちがあったんでしょうね。馬鹿にしつつ読みだしたらめちゃくちゃ面白くて! 目からウロコが10枚くらい落ちたというか。私が本当に読みたかったのはこういうのじゃないかって、すごく感動しました。

須賀しのぶさん

須賀しのぶ(すが・しのぶ)

上智大学文学部史学科卒業。1994年『惑星童話』でコバルトノベル大賞読者大賞受賞。 以後コバルト文庫を中心に活躍し『キル・ゾーン』『流血女神伝』などのヒットシリーズを持つ。 他著作に『スイート・ダイアリーズ』『神の棘』などがある。この度、大河女子ロマン『芙蓉千里』シリーズが完結。 最終巻『永遠の曠野 芙蓉千里Ⅲ』が6月末に上梓される。