特別鼎談

幅允孝 氏
ブックディレクター

内沼 晋太郎 氏
ブック・コーディネイター /
クリエイティブ・ディレクター

今野 敏博
初代ブックリスタ代表取締役社長

――「さっそくなんですが、この本棚の評判ってどうですか?」

今野「評判は最高ですよ、もちろん。」

今野「じつは出来上がったあと、出版社の方々をお招きして見て頂いたんですが、その評判も非常に良かったです。『僕らは電子書籍を扱っているけど、紙の本の事も大切に思っています』という思いをこうして目に見えて触れられる形にして、つまりは3D化して(笑)、お伝えすることができました。本当にお二人には感謝しています」

幅・内沼「ありがとうございます」

今野「評判を聞きつけて、仕事に全く関係ない人が見に来たりもするんですよ。社員の友達とか、その友達の友達とか。建築関係の方も来られましたね。フェイスブックなどを通じて、評判が評判を呼ぶという形で、みなさん見に来てくださっています。ま、狙い通りですね(笑)」

一同「(笑)」

――「電子書籍の会社であるブックリスタさんがなぜそこまでリアルの本にこだわる理由とはなんなんでしょうか?」

今野「紙であっても、電子書籍であっても、結局はその中身が重要ですよね。僕らが一番大事にしていることです。それをどうやったら伝えられるかというところで、悩みました。最初、お二人にお願いしたことは、会社のロビーだけど、ブックカフェにしてほしい、と。

電子書籍として楽しめるコンテンツの背景には、これだけ広大で楽しい楽しい世界がある。それを常に心がけていることのアピールをしたかったんですね。」

――「ブックリスタさんの本棚を作るときに、お二人でなにか約束事とかはあったんですか?」

内沼「本の世界の広さを、ちゃんと棚全体で表現しなきゃいけないってことですよね。本が電子化するというけれど、その本ってやつはいったい何なのか、って考えるにあたって、その要素を取りこぼさないようにジャンルを横断するということ。」

「うん。ブックリスタは本が好きってことがわかってもらえればとにかくいい。それはすごく明快だったので、スムーズにことは運んだように思います。その、みなさんが期待しているような、二人の軋轢とかはありません(笑)」

内沼「一緒に神保町に行って。」

今野「あ、一緒に行ったんですか?」

内沼「一緒に行きましたよ、もちろん。で、本屋行って、探して、帰りにカレー食って。」

今野「もともと僕は音楽の制作の仕事をやっていたので、今回はジャズのセッションみたいな感じでやってもらいたかったんです。だから大成功ですね。」

「僕は最近、紙の本棚がだんだん体の延長みたいな風に今後なっていくだろうなって思ってるんです。おそらく、電子化の波はどんどん広がっていくであろうから、逆に、あえて紙に刷って本棚という手が届く場所に保有しておくということはつまり、いつでも再生できるけど平気で忘れられるような、外部記憶の保存装置みたいなものになっていくんじゃないかって思ってるんです。僕なんかも読んだ端から平気でどんどん忘れて行っちゃうんだけれど、なぜ忘れられるかっていうと、目の前にすでに見えてて、すぐ手が届く確かなものとしてそれがあるから。電子書籍にはそれがないって言われているけれど、あえてこういう本棚をつくることによって、そのくらい強度のあるものを作っていきますよ!というメッセージになるんではなかろうかと思っているんです。実はこれを作ったことによってブックリスタは、自分のハードルを上げてると思うんです(笑)。」

今野「相当上げちゃったな(笑)」

内沼「そうですね、ブックリスタっていう会社がこれだけの本の歴史を背負わなきゃいけない。ちょっとそういうところはありますよね。紙の本の側は、これからどんどんプロダクト感を増していくというか、端的にいうと"モノ"らしくなっていくと思うんですよね。それは雑貨とか家具とか、お気に入りの道具みたいなものと同じ感覚です。一方で、そうした"モノ"として持っておきたいという感覚を起こさないもの、テキストが摂取できればいいというタイプのものはどんどん電子で読めばいいということになっていく 。これは複製技術の歴史の必然なんだけれど、まさにその狭間で歴史をつくっている会社であるという宣言になっているというか。」

「僕は今、電子書籍と言われてるものと紙の書籍の住み分けが上手く行っていない気がするんですね。つまり、どっちが良い、悪いみたいな話になっている。でも実際は個々の中で『ワールドサッカーダイジェスト』誌を読むときは電子で!でも、『百年の孤独』はやっぱり紙で取っておきたいな、とか。それはもちろん正解がないのだけれども、それぞれの領分みたいなのをちゃんと踏まえたうえでのアナウンスメントを実は誰もやっていないのが問題だと思っていたんです。そんなときに電子書籍の会社であるブックリスタが、例えばこういうような本は紙であってもいいんじゃないかみたいなことをあえて言っている。そのアナウンスメントというかひとつのケーススタディとしてもとても意義があると思いますね。これからも紙の本がなくなるわけでもなく、電子書籍がなくなるわけでもなく、自分の中のうまい使いようみたいなものを皆がさがしていかなきゃいけないと思うんです。そのひとつの在り方をブックリスタが示したってところにまた意義があるんじゃないかなと思います。」

内沼「そうですね。紙の本で育ってきた本好きの人たちと、これから電子の本をきっかけに本好きになる人たちと両方のために、きちんと向き合ってサービスを提供していくんだっていう、シンプルなプレゼンテーションになっている。この、ミーティングスペースからもタイトルが見えるっていうのも、いい感じですよね」

今野「いま電子書籍は始まったばかりなので、これからいくらでも変えていくことができる。手触りが紙に近づくような技術が出てきたり、SFの世界のようにボワンと本が宙に浮きだしたりしてもおかしくない。だから10年後、あのとき考えていたことが実現したねって言っていたいですね」