20世紀のアメリカ文学
カモメのジョナサン 完成版
新潮社
2014/6/30
この本のあらすじ
1970年に発表され、世界的なベストセラーとなった『かもめのジョナサン』。著者であるリチャード・バックが自身の飛行機事故をきっかけに、新たに最終章を加え出版された”完全版”。餌を獲るという生きるためではなく、純粋に飛ぶことそれ自体に魅入られた一羽のカモメを描く本書。群れを追放されても自身の思いをつらぬくカモメの生き様が、「自由とは何か」を読み手に問いかける。
世界的なベストセラーであり、そのまま歴史に名を刻み付けるかと思われたリチャード・バックの小説、『かもめのジョナサン』。しかし、40年という時を経て、新たに最終章が加えられた本書は”完成版"として再び人々を魅了することとなる。餌を取るためではなく、飛ぶことそれ自体に価値を見出したカモメの主人公、ジョナサン。周りの仲間たちは彼の行動が理解できず、ついには群から追放してしまう、というストーリーを懐かしく思った人も多いのではなかろうか。著者であるバックは、2012年に小型飛行機の操縦中の事故で瀕死の状態に陥る。実はその経験をきっかけに、封印されていた4章が公開されることとなった。最終章では、姿を消し、ジョナサンが神格化されたカモメの社会が描かれる。単なる章の追加、という形には留まらず、今までのストーリーを伏線として回収し、ひとつの作品として編み直されている本書。同じ本を読み重ねるとこんなにも感触が違うのかと驚いた。
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料理エッセイ
巴里の空の下オムレツのにおいは流れる
河出書房新社
2011/7/20
この本のあらすじ
1952年にフランス・パリへと渡り、シャンソン歌手として活動していた石井好子。食へも興味を寄せていた彼女が、現地で味わった様々な料理を、当時のパリ暮らしのエピソードと一緒に紹介していく。出版当時、日本には馴染みのなかった食を始めとするフランスの文化を伝えた1冊。写真やイラストなどは一切ないが、ひとつひとつの丁寧な書きぶりに、料理の匂いや温かさをリアルに感じ取ることができる。
1950年代、まだほとんどの日本人がフランスなど訪れていなかった時代に、シャンソン歌手としてパリ暮らしを始めた石井好子。日本へと戻り、当時の暮らしぶりを彼女がその時出会った料理を軸に回想していく。種々の料理のレシピが簡潔に綴られており、そのどれもが実体験にもとづいた手触りを感じさせてくれる。特に、タイトルにも含まれる「バタ」たっぷりのオムレツを下宿先で習う場面は、今後この料理が彼女の大事なレパートリーのひとつになることが伺える。実は、このオムレツを教える未亡人はロシア系の人間。いわゆる「パリジェンヌ」から学んだ料理というわけではない。しかし、そういう肩すかしや地軸のずれた感じが、逆に物語のリアリティを増幅させているように思える。ひとりパリの地で暮らした日本人シャンソン歌手の孤独や希望がないまぜとなった料理を、ご堪能あれ。
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サイエンス・フィクション
未来いそっぷ
新潮社
1982/8/27
この本のあらすじ
イソップ物語や日本昔話といった世界の寓話が、星新一独自のアレンジで刷新されていく。33編のショート・ショートストーリーは、どれも一癖も二癖もあるお話ばかり。ブラックユーモアあふれる笑いを散りばめつつ、きちんと新たな現代風の教訓に仕立て上げてるのも読みどころのひとつ。ちょっと大人向けの寓話集。
本なんて読んでいる時間がないという方は、まずこの本でしょう。「アリとキリギリス」「北風と太陽」「北風と太陽」などなど、世に広く知られる寓話たちを、ショートショートの旗手でありSF界を牽引する存在の星新一が、見事に料理していく。星が紡ぎ出す小説には、短い物語の中にも読み手を「あっ」と驚かせる仕掛けが巧みに配置されている。各物語の結末は、深く感心させられるものから、思わず背筋が凍ってしまうものまで様々。軽快さを感じさせつつも、一定の緊張感は途切れない。本書でもその妙を存分に味わうことができるけれども、古典的寓話に差し込まれる星独特のアイロニーもまた小気味良い。星流の解釈で生まれる寓話には、現代らしい新たな教訓が込められている。上質なブラックユーモアを、お楽しみください。
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旅行記
どくろ杯
中央公論新社
2004/8/1
この本のあらすじ
貧乏生活の中、根無し草のように暮らしていた詩人・金子光晴。彼はふとした思い立ちで、妻とともに上海へと赴く。刹那的な衝動に身を任せ、長い長い放浪の旅を続けつつも、そうした泥臭い行程が美しい文章で綴られていく。破天荒な彼の旅路を追走する旅行記でありながら、彼の生き様を如実に体感させる半自伝にもなっている1冊。
金子光晴は、あまりにも特異な詩人だ。その無頼さから何度も高校、大学を中退。現役大学生だった同じく詩人の森三千代と籍を入れた後、翌年には長男が誕生。その子供を妻の実家に預け、夫婦ともどもで突然上海へとあてどもない旅を始めると言うのだから、並大抵の神経ではない。身ひとつで貧乏旅行を続ける金子だが、そこには自分の行為への美化も卑屈もない。本書では自身の放浪を、どこか他人を眺めるような心地で平静に書き綴っていく。そして、その破天荒な生き様から漏れ出てくる瑞々しく美しい文章もまた、抗いがたい彼の魅力なのだ。「みすみすろくな結果にはならないとわかっていても強行しなければならないなりゆき」によって始まった7年のぶらり旅。究極の旅のひとつが、ここにある。
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恋愛コミック
不死身ラヴァーズ
講談社
2014/2/7~
この本のあらすじ
主人公の甲野じゅんは、長谷部りのという少女に恋をする。しかし、彼女と想いが通じ合った瞬間、長谷部は彼の前から姿を消してしまう。嘆き悲しむ甲野の前に、別人として新たな長谷部りのが現れ、物語は再び回り始める。出会いと別れを繰り返しながらも、一途な想いを決して絶やさない主人公。果たして彼の想いは実を結ぶのか?
著者の高木ユーナは、実は『進撃の巨人』を生み出した諫山創の元アシスタント。そこでの経験が反映されてか、本書『不死身ラヴァーズ』もその設定が実に独特で、面白い。主人公は、”長谷部りの”という女の子に恋をする。で、めでたくその恋は成就するわけですが、想いが実った瞬間に彼女は文字通りこつ然と姿を消してしまう。周りの友人たちも、長谷部の存在は記憶にない。絶望的なトラウマを抱えたまま主人公は成長していくのだが、その後、消えた彼女とうりふたつの女の子と遭遇する。性格やら年齢は異なるものの、姿形はそっくりで同姓同名の彼女。命がけでアタックし、両思いになるのだけれど、再び”長谷部”は消えてしまう。「想いが報われる」というのは恋愛漫画のゴールのひとつ。本書では、それが延々繰り返されてしまうのだ。小学生、人妻、バイト先の店長、と出会うたびに境遇が変わる長谷部の変化っぷりも見所だけれども、どんなに運命から否定され続けても、自身の想いを貫き通す主人公の姿も、どこまでも潔くて気持ちいいのです。
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ノンフィクション
さよならタマちゃん
講談社
2013/8/23
この本のあらすじ
35歳、漫画家アシスタントとして働いていた著者の武田一義は、突如精巣腫瘍という睾丸の癌に襲われてしまう。その闘病記となる本書では、慣れない入院生活に苦しみつつ、親身に支えてくれる家族や他の入院患者とのやり取りをユーモアを交えて描いていく。激変していく環境にもがきながらも、漫画家デビューを目指し彼はペンを握る。
プロを目指し、漫画家アシスタントとして日々奮起していた武田一義。彼の漫画家としてのデビューは、奇しくも自身の闘病記という形で果たされる。35歳という若さにして精巣腫瘍、いわゆる癌に冒されてしまった武田。抗ガン剤の副作用による背中をハンマーで叩かれるような痛み、慣れない病院生活で積もるストレス、そして漫画家生命を揺るがすような後遺症が彼を苦しめる。悲劇的な展開に胸が痛むが、コミカルな同室の患者たち、彼の受難に手を差し伸べる妻や仕事先のメンバーたちの存在が、彼の希望となり回復までの道のりを導いていく。いわゆる”感動もの"、という形に帰結していないのも、本書の特徴のひとつ。自身が体験した苦しみや、改めて知った周りの人たちとの関係を、素直に真正面から見つめて描いていく。
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取材協力:BACH