おすすめコメント

手塚治虫文化賞の最終選考候補となった『少年少女』や文化庁メディア芸術祭マンガ部門で審査委員会推薦作品となった『機動旅団八福神』などを経て、マンガ家としての評価を不動のものとした福島聡。本作はいままでの福島作品に通底しているシリアスで不穏な空気感は皆無で、全体を通してユーモラスでハッピーな世界観の作品になっています。ロボットの星屑くんを中心に時空を小気味よくスキップしながら丁寧に紡がれていく愛の記憶。わずか４巻で完結する小品ながら、何十巻にも及ぶ大作に負けぬ強いメッセージをかかえた名作です。美しいラストやグラフィカルな絵柄も素晴らしい！

おすすめコメント

『ちーちゃんはちょっと足りない』でマンガ好きのド肝を抜いた作家、阿部共実。10代の女の子の複雑で不安定な心理を描かせたらこの作家の右に出るものはいないかもしれません。本作『空が灰色だから』では、奇妙にバランスを崩した女の子たちの日常におけるイタイ出来事をオムニバス形式で描きます。全編コメディタッチではありますが、胸がえぐられるような切ない話、救いがなく胸糞が悪くなる話、狂気を感じるホラーな話など読後感は様々です。彼女たちの多くがバランスが崩れることに自覚的です。しかしダメだダメだと思うほどどんどんドヅボにハマっていってしまい、涙を流しながらも自分を止められないという「どうにもできなさ」こそが、本作の肝なのではないでしょうか。

おすすめコメント

作者の幸村誠といえば、現在連載中の超人気マンガ『ヴィンランド・サガ』の作者としておなじみですが、2002年に星雲賞を受賞した彼の原点とも言える作品がこちらの『プラネテス』です。主人公は「デブリ」という宇宙のゴミの回収業者。あまりにも広大な宇宙を目前にした多くのものがそうするように、やがて主人公も自身の内面と深く向き合うことになります。愛、自我、死生観といった哲学的、思想的なテーマに、誠実に向き合い、丁寧に答えを探す作者の姿勢はとても信頼ができます。ストーリー、設定、テーマの掘り下げ、絵柄、どれをとってもおよそデビュー作とは思えぬクオリティの恐るべき名作！全４巻ですので、時間のある夜に一晩で読み切ってしまうのがオススメですよ。

おすすめコメント

他のどの作家とも似ていない独自のスタイルをキープしながら、読者を軽々と熱狂させ興奮させてしまうマンガ家、黒田硫黄。オリジナリティと飛び抜けた才能を所持しているのは明らかなのですが、彼ほど何がすごいのかを言語化するのが難しい作家も珍しいと思います。特徴的な絵柄や構図、独創的な設定やキャラクター、独特のテンポでのストーリーテリング、そのどれもが彼の才能のごく一部のように思えてなりません。決して万人にオススメできる作家ではないのですが、ハマる人にはがっちりハマりますので、未読の方は全４巻の本作からトライしてみてはいかがでしょうか。

おすすめコメント

『ボーイズ・オン・ザ・ラン』『アイアムアヒーロー』の花沢健吾のデビュー作です。今から１０年ほど前に描かれた本作の舞台設定は2015年の東京。当時はまだ今ほど一般的でなかった仮想現実の世界をテーマとした近未来SFなのですが、花沢健吾のおためごかしや綺麗事は決して言わないという最大の美点が存分に発揮され、現実世界でうだつの上がらない多くの男性（男性だけではないのかもしれませんが、、、）にとっては痛いくらいに共感できる描写のつるべ打ちです。痛々しくも笑えるおバカなストーリーが、優しく愛があふれるラストにスムースに繋がり、ホロリと涙がこぼれてしまいます。