読んでほしいこの本

2015/9/23 written by BOOK TRUCK

本から読み解く<五輪エンブレム問題>

連日メディアを騒がせた<五輪エンブレム問題>は、デザインの役割、デジタル時代の著作権、パクリとオリジナリティ、いきすぎたネットリンチなど、様々な論点が入り乱れ大騒動に発展していきました。今週はこの騒動の論点を整理し、それぞれの領域に対して理解が深まる本を7冊ご紹介します。どうぞご覧くださいませ。

空前絶後の大プロジェクトを支えた人々

TOKYOオリンピック物語

野地秩嘉

小学館

2013.10.13

この本のあらすじ

日本に再び感動と熱きドラマがやってくる。敗戦国日本の復興を世界へと知らしめたのは前回、1964年の東京オリンピック。奇跡といわれた成功を陰で支えた人々のたゆまぬ努力を描いた傑作ノンフィクション。

おすすめコメント

今回の騒動で認知度が飛躍的に上がったデザイナー、亀倉雄策。1964年の東京オリンピックにて初めて導入されたシンボルマーク(エンブレム)や公式ポスターをデザインした人物です。この躍動感のあるポスターは世界でも絶賛され、日本のデザイナーが世界に躍り出るきっかけにもなりました。本書では亀倉雄策らがどのような経緯でエンブレムを作るに至ったのか、なぜ亀倉雄策のデザインに決まったのかなどを詳しく知ることができます。他にも、日本初のオリンピックという空前絶後の大プロジェクトを成功へと導いた、若き技術者たちのエピソードが多数収録されていますので、オリンピックに対するネガティブな空気が漂っている今こそオススメしたい一冊です。

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日本の美意識の源流に迫る

日本のデザイン――美意識がつくる未来

原研哉

岩波書店

2011.10.20

この本のあらすじ

まさしく歴史的な転換点に立つ日本。大震災を経て、とりわけ経済・文化活動のあらゆる側面において根本的な変更をせまられる今、この国に必要な「資源」とは何か? マネーではなく、美を、幸福を、誇りを得るために、立ち戻るべきは「感受性」である──。つねに「ものづくり」の最先端をリードしてきた著者が、未来への構想を提示する。

おすすめコメント

良くも悪くも「デザイン」というものがここまで世間の注目を集めたことは過去に例がないのではないでしょうか。今回の騒動ではデザインをする側と受け取る側の意識の決定的な違いが露見し、(デザイン分野に限らず)専門家と素人の間でのコミュニケーションのあり方を考える良い機会になったのではないかと思います。しかし今回のことで、日本のデザインやデザイナーを過度に貶めるのは少しお待ちを!他国には他国の良さがありますが、日本にも世界に誇るべき素晴らしい美意識があるのです。本書は日本のデザインの素晴らしい特徴と、「デザイン」の本来的な役割について学ぶには最適な一冊。「エンプティネス(=間)」という考え方を古くから愛してきた日本人ならではのデザインセンスに注目です。

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「オリジナリティ」を見つめ直す

すべてのJ-POPはパクリである

マキタスポーツ

扶桑社

2014.1.30

この本のあらすじ

ヒット曲を分析したら現代社会が見えてきた。そして、最終的に行きついた「すべてのJ-POPはパクリである」という結論とは?本書は芸人による音楽評論本でありながら、現代社会における「オリジナリティー」とは何かなどを考えさせる現代社会批評の書ともなっている。

おすすめコメント

無類の構造分析フェチであるマキタスポーツが、J-POPのヒット曲を構造分析し、そこからヒットの法則を導き出した本書。佐野研二郎のデザインにおける明らかな盗用は断罪されるべきだとは思いますが、今回のエンブレム騒動では「見た目が似てるからダメ」「ゼロから生み出さないなんてクリエイター失格」といった暴論も多く目に付いた気がします。こういった過度な「オリジナル信仰」がはびこるなか、本書ではJ-POPの徹底した構造分析を通して、現代における「オリジナリティ」のあり方を見つめ直すきっかけをくれます。かなり踏み込んだテーマながら、決してネガティブにならずに、きっちり笑える一冊に仕上げているあたり、芸人マキタスポーツの底力を見た気がします。

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デジタル時代の著作権を考える

なんでコンテンツにカネを払うのさ? デジタル時代のぼくらの著作権入門

岡田斗司夫、福井健策

CCCメディアハウス

2011.12.1

この本のあらすじ

著作権って何? どうして必要なの? 自分で本を自炊すると著作権違反になるの? 著作権がないと面白い作品は生まれない? TPPに参加すると著作権はどうなる? デジタル時代に生じる素朴な疑問をめぐって、気鋭の弁護士、福井健策と評論家の岡田斗司夫が対談。話題は電子書籍の自炊から、コンテンツのマネタイズ、国家とプラットホーム、情報と経済の新しいあり方まで、縦横無尽、とんでもないところに飛びまくる! 岡田斗司夫の大胆な発想に、福井弁護士はどう答えるのか!? 本書を読めばデジタル時代の著作権との向き合い方、そして未来が見えてくる。

おすすめコメント

今回の騒動で注目を浴びた著作権。デザイナーのオリジナリティのあり方は議論の余地があるとしても、いくつか見られた明確な著作権侵害は擁護できるものではないと思います。デジタル全盛のいま、僕らはどのように著作権と付き合うべきか、またこれからの著作権はどのような制度であるべきか、非常に読みやすく刺激的な対談形式で学ぶことができます。ただ、現行の著作権についてそれほど深く語られる本ではないので、現行の著作権について体系的、入門的に学びたいという方には、本書の共著者であり、芸術文化法や著作権法を専門分野とする弁護士、福井健策の『18歳の著作権入門』や、野口祐子『デジタル時代の著作権』がオススメです!

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正義の暴走はなぜ起こる!?

炎上と「私刑」化する社会 「ソーシャルメディアの歩き方」から

藤代裕之

日本経済新聞社

2014.7.31

この本のあらすじ

批判的な意見が殺到する「炎上」。ソーシャルメディアの影響力が高まった現代ならではのインターネットのマイナス面がクローズアップされています。大学生の迷惑行為、政治家や芸能人の失言……炎上は尽きず、社会問題化しています。この電子書籍は、2006年から始まったNIKKEI NET(終了)での「ガ島流ネット社会学」と、10年からの日本経済新聞電子版「ソーシャルメディアの歩き方」に連載した合計約200本の記事から、炎上に関係する記事を集めたものです。

おすすめコメント

デザイナーの過去の仕事の中に、明らかに著作権を侵害していると思われる行為がネット民により発見されました。インターネットには相互監視によりこういった不法行為が暴かれるという良い点もありますが、時に彼らの「正義」は暴走しネット私刑(リンチ)へと発展してしまいます。本書は、そんなネットの暴走が社会に与える影響を分析し、僕らが目指すべきネット社会のあり方を模索する意欲的な一冊です。類書である安田浩一の『ネット私刑(リンチ)』も併せて読むとより理解が深まります。

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ネットの負の側面を鋭く捉えた良書

ウェブはバカと暇人のもの~現場からのネット敗北宣言~

中川淳一郎

光文社

2009.4.20

この本のあらすじ

どいつもこいつもミクシィ、ブログ。インターネットは普及しすぎて、いまやバカの暇つぶし道具だ。みんなが言いたかった真実をニュースサイト編集者が大放言。ネット界大顰蹙(ひんしゅく)!?

おすすめコメント

インターネットの負の側面に鋭く切り込んだ本書。タイトルこそかなり挑発的で極端なものですが、内容はとても真っ当で、ネットと適切な距離を持って付き合っていくことの必要性を訴えています。今回の騒動に関しても、著者はいくつかの媒体で発言をしており、ネット民の理解という点では他の識者とくらべて一枚上手だなと思ったりしました。相変わらずの口の悪さはご愛嬌ですかね。

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「大衆の時代」をどう生きる!

大衆の反逆

オルテガ、寺田和夫

中央公論新社

この本のあらすじ

近代化の行きつく先に、必ずや「大衆人」の社会が到来することを予言したスペインの哲学者の代表作。「大衆人」の恐るべき無道徳性を鋭く分析し、人間の生の全体的建て直しを説く。

おすすめコメント

1930年に刊行された大衆社会論の名著。近代化の行き着く先に「大衆の時代」を予見していたオルテガですが、良くも悪くもインターネットの普及によりこの流れは加速しています。このような時代において専門的な知識や技能をどのように活かしていくかが今後の社会の課題なのかもしれませんね。現代社会に警鐘をならす一冊として、2015年のいま読んでもとても刺激的です。

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いかがでしたか。今回の出来事はたくさんの人がそれぞれの立場でモヤモヤしたと思います。この出来事から何を学び、どのような社会を目指すのか、じっくり考えてみるのも良いのではないでしょうか。さて次週は「秋の夜長にベットで読みたい小説特集」をお送りします。どうぞお楽しみに!

BOOK TRUCK

2012年3月オープン。BOOK TRUCKは公園や駅前、野外イベントなどの行く先々に合わせて、その都度品揃えや形態が変わるフレキシブルな移動式本屋として、新刊書、古書、洋書、リトルプレス、雑貨などを販売。

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