天才・奥田亜紀子、恐るべし…
ぷらせぼくらぶ
小学館
2013.11.29
この本のあらすじ
「箱があったらその中で眠ってしまいたい。そしてそのままそれを宇宙の片隅の誰も知らない場所にとばしてほしい」―――
へちゃむくれでネガティブでナイーブな中学生の女の子・岡ちゃんほか、「平凡だけど、ほんのちょっとだけ特別でありたい。でもやっぱり特別なんかにはなれない」、そんな多感な中学生達を独特のタッチで描き出した連作短編集。
おすすめコメント
ウワサは聞いていましたが、文句無しの傑作です。絵の構図や人物造形、台詞回しと会話の妙、物語のキレの良さ、マンガを構成するあらゆる要素から著者の卓越した才能が感じられます。中学生の日常の中のちょっとした出来事が、なぜこうも涙腺を刺激するのか。登場するキャラクターそれぞれにイタさと愛おしさが同居するところも素晴らしいですね。僕が特に好きなのは吃音ぎみで友達がうまく作れない男の子、土屋君。見てるのが辛くなるほどイタいけど、同時に憧れてしまうほどの純粋さを持っていて、打算なんてものとは無縁の土屋君がすごく素敵です。彼の台詞はグッとくるものが多いですよ。《武庫島すげえぞぃっ。と、友達笑っただけで、世界が輝きだしたぞっ。》とか《「ぐちゃぐちゃになって死ネ」って思った。》とか。
表紙だけでも100点満点
淡島百景 1
太田出版
2015.4.14
この本のあらすじ
淡島(あわじま)歌劇学校合宿所――通称“寄宿舎”には、
舞台に立つことを夢みる少女たちが全国から集まってくる。
ミュージカルスターに憧れて入学した若菜。
親友の思いを背負って学び続ける寮長の絹枝。
周囲の視線を集める美しき特待生の絵美。
かけがえのない季節をともに生きる少女たちの青春グラフィティ。
おすすめコメント
女の子が好きな女の子、女の子になりたい男の子など、自分が生まれ持った<性>とうまく折り合いとつけることができない少年少女を繊細に描くマンガ家、志村貴子。本作も志村節全開で、少女(時に少年)たちの友情、恋愛に胸が締め付けられます。内容以前に僕は表紙の絵にやられてしまいました。ポケットに手を入れ、視線を下に落とした女の子。背筋が凛と伸びているせいか、卑屈な感じやひねくれた感じはなく、水彩絵の具で淡く色付けられた少女が、気品を漂わせて物憂げに佇んでいます。ああ美しい。こういった少女が纏う繊細で儚げな美しさこそが志村作品の魅力だなと思います。
部活経験のある方必見!
高校球児 ザワさん(1)
小学館
2009.4.30
この本のあらすじ
夏の甲子園、アルプススタンドで先輩たちの試合開始に備える、応援要員の球児たち。年ごろの彼らの話題は目下、他県のチアガール。「どのコがいい?」など盛り上がる中、部員ヤマサキだけは「甲子園まで来て・・・」と興味なさげ。だが彼は、男子と同じユニフォーム姿の少女に目を奪われる。その夜、宿舎で見たスポーツニュースで、ヤマサキは彼女のことを知る。一目ボレの相手は、都澤理紗。西東京代表・日践学院野球部、唯一の女子部員・・・
おすすめコメント
日践学院野球部、唯一の女子部員であるザワさんを中心に、高校球児たちの何気ない日常をみずみずしく描写した作品です。部活少女へのフェティシズムや、放課後の学校に漂うノスタルジックな空気など、そういった微妙なニュアンスを敏感にキャッチする著者の鋭い感性が、細かなディテールにまで血の通った本作を作り上げています。読んでいると夢中で部活をやっていた頃が懐かしくなり、胸がキューっと苦しくなります。はやく部活に行きたくて制服の下にトレーニングウェアを着たり、家まで我慢できずに帰りのコンビニで買い食いしたり、部活をやっていた人なら大いに共感してしまう部活あるあるも満載です。
映像化の前にぜひ!
3月のライオン 1巻
白泉社
2008.2.22
この本のあらすじ
その少年は、幼い頃すべてを失った。夢も家族も居場所も──。この物語は、そんな少年がすべてを取り戻すストーリー。その少年の職業は──やさしさ溢れるラブストーリー。
おすすめコメント
先日テレビアニメ化、実写映画化されることが発表された『3月のライオン』。本作は『第4回マンガ大賞』『第35回講談社漫画賞』『手塚治虫文化賞』といった錚々たるマンガ賞を受賞している押しも押されもせぬ超人気作品です。幼くして心に孤独を抱えてしまった桐山が、彼の唯一のよりどころであった将棋を通して成長し、なくしたものを取り戻していくストーリーはとにかく感動的。人気なのも頷けます。他にも、ライバルでもある二階堂との友情、彼らを取り巻く淡い恋愛模様など、見どころの多い作品ですので、まだ未読の方がいたら映像化の前にぜひ!
いかがでしたか。今回はたまたま4作品とも女性が作者でしたが、特に他意はありませんのであしからず。なんだか年を重ねるほどにこういった青春マンガが好きになっている気がします。『ぷらせぼくらぶ』などは、もっと多くの方に読まれるべき作品だと思いますので、少しでも興味のある方はぜひお手に取ってみてください。さて次週は「大人も楽しめる児童文学」をお送りいたします。どうぞお楽しみに!