読んでほしいこの本

2015/2/26 written by BOOK TRUCK

素晴らしき一巻完結マンガたち

少しの時間で良質な映画や小説を一作品堪能したような満足感を得ることができる一巻完結マンガ。短いからと侮るなかれ!これらは、マンガ雑誌で長期連載している作品のように途中での打ち切りを心配する必要がないために、熟考されたプロットに作者のメッセージをダイレクトに込めることができるので、コンパクトながらびっくりするくらいクオリティの高い作品がゴロゴロあります。今回はそんな一巻完結マンガのなかから、特にオススメの6作品をご紹介。面白いマンガが読みたいけど何十巻も続いている作品を読む時間は無いという忙しいあなたにも大変おすすめです。

青春マンガの名手・押見修造の最高傑作

志乃ちゃんは自分の名前が言えない

押見修造

太田出版

2013/11/19

この本のあらすじ

“普通になれなくて ごめんなさい”ヒリヒリ青春漫画のマエストロが贈る、もどかしくて、でもそれだけじゃない、疾走焦燥ガールズ・ストーリー。"自分の名前が言えない"大島志乃。そんな彼女にも、高校に入って初めての友達が出来た。ぎこちなさ100%コミュニケーションが始まるーー。いつも後から遅れて浮かぶ、ぴったりな言葉。さて、青春は不器用なヤツにも光り輝く……のか?

おすすめコメント

中学校の教科書に載せたいくらい素晴らしい作品です。僕がことあるごとに読み返す大好きなマンガのひとつで、何回読んでも自然と涙が込み上げてきます。大なり小なり誰もが抱えて生きているコンプレックス。凡百のドラマがコンプレックスの克服をテーマに物語を描くのに対して(まあ、それはそれで感動的だったりするのですが)、本作ではコンプレックスを自分の一部として受け入れ向き合うことで成長していくという描き方をしているので、より優しく普遍的な物語になっています。ちなみにBGMは『あの素晴しい愛をもう一度』で決まりでしょう!

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2014年を代表する傑作

ちーちゃんはちょっと足りない

阿部共実

秋田書店

2014/5/8

この本のあらすじ

あれも欲しい、これも欲しい…。いつも何か物足りない気がする中2女子、ちーちゃんとナツ。少し不満で平凡な毎日は、ある事件をきっかけに揺らぎ始めて?

おすすめコメント

これはいろいろな意味で恐ろしいマンガです。『魔法少女まどか☆マギカ』と同じように、絵柄やタイトルから油断していると、驚くほど深く鋭いメッセージにギョッとします。本作の中心人物であらゆる面で“持たざる者”として対に描かれているちーちゃんとナツ。しかしタイトルは『ちーちゃん“は”ちょっと足りない』。じゃあナツはどうなのか…?? タイトルの意味、テーマへのアプローチ、ストーリー展開、すべてが周到に計算されていて、たった一巻でここまでの物語を描いた作者がなにより恐ろしいです。ナツの「私は何もしないただの静かなクズだ」というセリフが胸をえぐります。

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マンガ史上屈指の魅力的なダークヒーロー

黒博物館 スプリンガルド

藤田和日郎

講談社

2007/9/21

この本のあらすじ

19世紀・ヴィクトリア朝初期のロンドンで、女性ばかりを狙った連続殺人事件が発生。現場では、高笑いしながら跳び去る怪人の姿が目撃されていた。3年前、夜道で女性たちを驚かせたという「バネ足ジャック」が殺人鬼となって帰ってきたのか? 事件を追うロンドン警視庁の警部は、意を決してある「貴族」の館へ馬車を飛ばす……。

おすすめコメント

『うしおととら』『からくりサーカス』の作者で、マンガ好きの間で高い人気を誇る藤田和日郎。彼が「切り裂きジャック」と並び、イギリスに実在する都市伝説「バネ足ジャック」を下敷き描いた活劇がこちらです。ストーリーは文句無く面白い。でも本作の白眉はやなりなんといっても背徳的で破天荒な主人公ストレイド卿のかっこよさでしょう。最初はただの下品な暴君でイヤな奴だなあと思っていましたが、彼の生い立ちや彼の抱える悲哀や恋心が明らかになっていくにつれて、気がつけば彼の虜に!! 切なく純粋なラブストーリーとしてもオススメですよ。

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松本大洋、望月ミネタロウ好き必見!

森山中教習所

真造圭伍

小学館

2010/8/30

この本のあらすじ

周囲の人や物事に無関心、無感動な青年、佐藤清高くん。ひょんな事から、ロハで自動車教習所に通える事になる。しかし、その教習所は未公認教習所だった。教習をつうじて周りの少し危ない連中とふれあい、清高くんは変わっていくのか、いかないのか!?

おすすめコメント

文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞も受賞した、いま注目のマンガ家・真造圭伍の初めての連載作品。僕も大好きです。望月ミネタロウや高野文子のようにミニマルかつスタイリッシュな味のある絵も、熱いものを内に秘めた純粋な登場人物も、オフビートかと思いきやきっちりカタルシスを与えてくれるストーリーも、どれもが堪らなく愛おしいのです。山下敦弘か前田司郎あたりを監督に向かえて一刻も早く映画化することを強く願っています。

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35ページに込められた平和への祈り

夕凪の街、桜の国

こうの史代

双葉社

2004/10/12

この本のあらすじ

昭和30年、灼熱の閃光が放たれた時から10年。ヒロシマを舞台に、一人の女性の小さな魂が大きく揺れる。最もか弱き者たちにとって、戦争とは何だったのか……、原爆とは何だったのか……。漫画アクション掲載時に大反響を呼んだ気鋭、こうの史代が描く渾身の問題作。

おすすめコメント

『夕凪の街』と『桜の国』からなる本作。どちらも素晴らしい作品ですが、わずか35ページで戦争・原爆の悲惨さと残酷さ、戦後もその暗い影に怯えながらも賢明に慎ましく生きる人々を、説教くささや悲壮感を抜きにカラリと描いた『夕凪の街』は、歴史上まれに見る傑作だといわざるをえません。こちらも『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』と同様に。教科書に載せるべき作品のひとつだと僕は思っています。そしてできることなら世界中のより多くの人々にこの名作が読まれることを願わずにいられません。

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原作の幻想的な雰囲気を見事にマンガで表現

五色の舟

近藤ようこ、津原泰水

KADOKAWA / エンターブレイン

2014/3/24

この本のあらすじ

先の見えない戦時にありながら、見世物小屋の一座として糊口をしのぐ、異形の者たちの家族がいた。未来を言い当てるという怪物「くだん」を一座に加えようとする家族を待つ運命とはーー。津原泰水の傑作幻想短編を、近藤ようこが奇跡の漫画化。月刊コミックビーム2013年8月号~2014年3月号に掲載の全8話を収録。

おすすめコメント

「見世物小屋の一座として糊口をしのぐ、異形の者たちの家族」というかなり挑戦的な題材ですが、こういった作品が満場一致で文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞するというのは、まだまだ日本も捨てたものじゃないなと嬉しくなります。『桜の森の満開の下』『夜長姫と耳男』『戦争と一人の女』といった坂口安吾の幻想的な名作たちを見事にマンガ化してきた近藤ようこなので、本作もハズレは無いだろうと思って読み始めたら、これがびっくりするくらいの傑作でした。マンガ好きだけでなく、文学好きの方にも読んでもらいた一冊です。

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いつも本当にオススメできる作品だけをご紹介していますが、今回は本当に本当に本当にオススメの6作品です。ちょっと重ためのテーマのものが多いですが、できれば全部読んでほしいです。よろしくお願いします!

BOOK TRUCK

2012年3月オープン。BOOK TRUCKは公園や駅前、野外イベントなどの行く先々に合わせて、その都度品揃えや形態が変わるフレキシブルな移動式本屋として、新刊書、古書、洋書、リトルプレス、雑貨などを販売。

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